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Product Story / 2026

Suno AI × Claude Design × Claude Code × Codexで「SOUND SPACE」をApp Storeへ

BGMに環境音や音色を重ねて、自分だけの瞑想サウンドを作るアプリです。はじめてのiOS開発をWindowsから始め、Suno AIで音源を作り、Claude Designに画面をレビューしてもらって作り直し、iPhoneとiPadのApp Storeへ届けました。

iOS / SwiftWKWebViewStoreKit 2GitHub ActionsSuno AIClaude DesignClaude Code × Codex
満月と水面の波紋を表したSOUND SPACEのアプリアイコン

はじめに — iOSは初めてでした

エンジニアではありますが、iOSアプリを作ったことは一度もありませんでした。開発機はWindowsで、Macは持っていません。Xcodeも触ったことがない状態からのスタートです。

その状態で、音を扱うアプリをApp Storeへ届けました。2度差し戻され、3回目の審査で承認されています。その後、Claude Designのレビューと提案をもとに画面を作り直した1.1.0を、iPad対応とあわせて配信しました。現在の最新版は1.2.0で、英語表示に対応し、日本に加えて米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・シンガポールで配信しています。この記事は、何を作り、何を作ってから捨て、どこでつまずいたかの記録です。

App StoreのSOUND SPACEのページを開くQRコード
iPhone・iPadで開くiPhoneかiPadのカメラでこのQRコードを読み取ると、App Storeのページが開きます。 App Storeでダウンロード

使った道具と、それぞれに任せたことは次のとおりです。

道具担当したこと
Suno AIBGM 20曲の生成。使うかどうかは、人が試聴して決める
Claude Design画面のレビュー、改善デザイン案、実装の指示書。公開版を操作した画面のスナップショット13枚を見てもらった
Claude Code / Codex実装、音源の測定、ビルドと配布、App Store審査への対応。1.1.0の画面は、Claude Designの指示書をもとにCodexが実装した
この記事で書かないこと

効果や効能の話は書きません。このアプリが約束できるのは「出している音の仕様が正しいこと」だけで、それ以上は測っていないからです。理由は日本市場の法規制の節で説明します。

何を作ったか — 自分だけの瞑想サウンドを作る

SOUND SPACE の中心にあるのは、自分だけの瞑想サウンドを組み立てられることです。できあいの音源をそのまま流すのではなく、音楽を選び、必要な音だけを重ね、時間を決めて始めます。

手順選ぶもの
1. 音楽を選ぶ深い瞑想・リラックス・睡眠・集中・ソルフェジオの5モードから選び、そのモードに合わせたBGM(全20曲)から1曲を選びます
2. 重ねる音色としてうなりかシンギングボウルを1つ。環境音として雨・波・川・森・焚き火から1つ。どちらも「なし」で構わず、後から変更できます(詳しくは重ねる音)
3. 時間を決めて始める10分から60分、または無制限。いつでも停止できます

「重ねる」を任意にしているのが要点です。各モードはBGMだけが鳴る状態から始まります。足すかどうかは利用者が決めます。既定で全部載せにすると、どの音が何なのか分からなくなるためです。

組み合わせは、たとえば「深い瞑想のBGM + 雨 + 20分」や「集中のBGM + 川 + 60分」のように作ります。約528Hzのチャイムを重ねたい場合は「音の調整」タブから追加できます。

アプリを開くと、無料の曲が1曲選ばれた状態で、すぐに「再生する」を押せます。この画面の構成は、Claude Designのレビューをもとに作り直したものです。

独自のバックエンドサーバーはありません。BGM 20曲と環境音7層、合わせて92MBの音源をすべてアプリに同梱しているため、音源再生・記録・解析は機内モードでも動きます。通信を使うのは購入と復元のためのStoreKitだけで、アカウント登録はありません。

タブ役割
瞑想上の3項目で自分の瞑想サウンドを組み立てて再生する。アプリの中心
ガンマ40Hz刺激ツール。瞑想サウンドとは独立している
音の調整周波数・音量・レイヤーの細かな調整
記録連続日数と履歴。手元の音声ファイルの変調を測る「音源チェック」もここにある

重ねる音 — 音色と環境音を1つずつ

BGMの後ろに重ねられる音は、「音色・周波数」と「環境音」の2つの枠に分かれていて、それぞれ1つずつ選べます。どちらも「なし」から始まり、BGMそのものには手を加えません。

枠音中身料金
音色・周波数うなり左右の耳に少し違う高さの音を流して作る、ゆっくりした揺れ。イヤホンが必要無料
シンギングボウル実物のシンギングボウルを一打ずつ収録した音。約1分に1回鳴るPlus
約528Hzチャイムウィンドチャイムの実録。「音の調整」タブから重ねるPlus
環境音雨、波どれもCC0のフィールドレコーディング(実際に録音された音)無料
川、森・木の葉、焚き火Plus

環境音 — すべて実録にして、音量もそろえた

雨・波・川・森・焚き火は、最初は合成で作っていましたが、すべて商用利用できるCC0の実録に置き換えました。素材は周波数の分布だけでなく、粒立ちのような時間の変化まで見て選んでいます。経緯は環境音は実録に置き換えたで書きます。

実録の素材は、録音ごとに音の大きさがばらばらです。そのまま並べると、選ぶ音によって急に大きくなったり、聞こえにくくなったりします。そこでどれを選んでもほぼ同じ大きさで聞こえるように、素材ごとに音量を合わせています。焚き火は、はぜる瞬間の音だけが極端に大きく、他と同じやり方で合わせると全体が沈んで、焚き火だけが聞こえにくくなりました。そのため焚き火だけは合わせ方を変えています。出典・作者・ライセンスは、アプリ内にも表示しています。

シンギングボウル — 鳴り続ける音から、一打の実録へ

当初は、鳴り続ける「クリスタルボウル」の音を重ねていました。これを、実物のシンギングボウルを一打ずつ収録した音に差し替え、約1分に1回鳴って自然に消えていく形にしています。

ボウルの音にはループ再生ならではの難しさもありました。滑らかに続く音ほど、繰り返しの継ぎ目にあるわずかな段差が「チッ」という音になって目立ちます。原因と、実際に効いた対策は固定した音源と、測っている値で書いています。

うなり — 左右の音をずらして作る揺れ

うなりの正体はバイノーラルビートです。右耳と左耳に、ほんのわずかに高さの違う静かな音を1つずつ流します。たとえば左耳に197Hz、右耳に203Hzを流すと、その差の6Hzが、毎秒6回の「ウォン、ウォン」というゆっくりした揺れとして感じられます。左右の耳へ別々に届く必要があるので、イヤホンが必要です。

揺れの速さはモードごとに決めてあり、たとえば「集中」は毎秒16回で一定、「深い瞑想」は毎秒10回から4回までゆっくり遅くなります。どのモードも左右の差は30Hzを大きく下回ります。差が大きくなると揺れとして感じにくくなるためで、40Hzを扱うGamma 40は別の方式を使っています。

試作の段階では「周波数」と呼んでいましたが、耳で実際に感じる現象の名前である「うなり」に変えました。アプリ内でも、研究結果は一致しておらず医学的効果を保証するものではない、と説明しています。

画面は Claude Design で作り直した

最初に審査を通った1.0は、機能としては揃っていましたが、画面は開発の順番どおりに部品を積み上げたものでした。そこで配信後、公開版を実際に操作した画面のスナップショット13枚をClaude Designに渡し、画面を見てもらってレビューと改善案をもらいました。その提案をもとにCodexが実装したのが1.1.0です。

1.0の瞑想画面。無料版の説明、音楽を選ぶ手順、押せないBGM選択ボタンが縦に並ぶ1.0
1.1.0の瞑想ホーム。現在のサウンド、再生ボタン、音楽・重ねる音・時間の3項目1.1.0
瞑想タブを開いた直後の画面。左がClaude Designに渡した1.0、右が提案を反映した1.1.0です。

レビュー — 「瞑想アプリなのに、画面が設定パネルに見える」

Claude Designのレビューは、問題をこの一点にまとめていました。最初に触れる画面が、番号付きの手順、注意書き、押せないボタンで埋まっていて、静けさがない、という指摘です。方針として示されたのは、情報を「見せる」から「隠して、必要な時に出す」へ変えることでした。

良い点も挙げられていました。「無料版のまま使えます」「料金は自動では発生しません」を最初に置いている課金の透明性です。そのうえで、指摘は優先度つきで並んでいました。代表的なものを4つ挙げます。

指摘1.1.0での対応
初回起動の主役が、押せない「BGMを選択」ボタンになっている無料曲を選んだ状態で起動し、すぐに「再生する」を押せるようにした
説明文が多く、選択肢の横に常に並んでいる設定は3行の要約にまとめ、詳しい説明は必要な時だけ開くようにした
タブ名に日本語・英語・大文字英語が混ざっている「瞑想 / ガンマ / 音の調整 / 記録」の4つにそろえた
再生中でも画面が変わらない残り時間・曲名・終了ボタンだけの専用画面に切り替えるようにした

中でも大きかったのは、最後の指摘です。瞑想アプリなのに、瞑想している時間に見る専用の画面がない。レビューはこれを、最も大きな設計上の空白だと書いていました。

改善デザイン案 — 6画面と3つの方針

レビューに続いて、Claude Designは具体的な6画面の案を出しました。配色と情報は現行のまま、並べ方と出すタイミングだけを変える案です。方針は3つでした。

6画面は、ホーム、再生中の画面、音楽を選ぶシート、ガンマ、Plus加入済みの状態、重ねる音のシートです。

指示書をCodexに渡して実装した

Claude Designは、画面の案に加えて実装の指示書も書いていました。全画面に共通する修正(セーフエリア、書体と言語、タブ構成、配色、コントラスト、説明文の扱い)、画面ごとの仕様、実装の優先順、現行の画面から抜き出した色や角丸の値までが入っています。冒頭には、配色・文言・機能は現行を維持し、変えるのはレイアウトと情報を出すタイミングだけ、と書かれていました。

この指示書をそのままCodexに渡し、Codexがアプリの画面(HTML・CSS・JavaScript)へ反映しました。1.1.0に入った変更は次のとおりです。

1.0の再生中。曲一覧が表示されたまま、下に停止ボタンがある1.0
1.1.0の再生中。残り時間と終了ボタンだけの画面1.1.0
再生中の画面。1.0は曲一覧のまま停止ボタンが出るだけでしたが、1.1.0では瞑想のための画面に切り替わります。

見た目は変えても、音と課金には触らない

変えたのは画面だけです。音源、課金の権利判定、iOSのネイティブ再生経路には手を入れていません。このアプリの価値は、測って担保している音の仕様にあります。指示書の「機能は現行を維持する」という前提は、その点でも都合の良いものでした。反映したあとは、CIのシミュレータで無料曲の選択と再生、Gamma 40の再生を自動で確かめています。

iPadにも対応した — 数値ではなく、絵で確かめる

1.1.0ではiPhone専用をやめ、iPadにも対応しました。最初のiPad対応ビルドは、ブラウザで「横にはみ出していないか」を測り、問題なしと判断して作りました。ところがCIが撮ったiPadの画面を見ると、本文が上に寄って、下半分が真っ黒の空白でした。はみ出しの数値では見つからない種類の問題です。

iPadの大きな画面では本文を縦の中央に寄せるように直し、次のビルドで審査に出しました。Claude Designに実際の画面を見てもらったのと同じで、デザインの確認は、実際の画面を見て行う必要がありました。1.1.0は2026年9月12日に審査へ提出し、9月13日に配信されています。

もう一つの機能 — Gamma 40

瞑想サウンドとは別に、Gamma 40 という独立した機能があり、「ガンマ」タブに置いています。40Hzの聴覚刺激だけを鳴らすツールで、作業や読書のあいだに流す想定です。音楽ではありません。

これを別のタブに分けているのには理由があります。「40Hz」を掲げた音源はすでに大量にありますが、その多くがバイノーラルビートという方式です。左右の耳にわずかに違う周波数を流し、その差をうなりとして知覚させる方式です。

ここに問題があります。左右の周波数差は30Hzを超えると、うなりとして知覚されにくくなります。つまり40Hzでは方式として成立しにくい。40Hzの聴覚刺激を扱う研究で使われてきたのは、音そのものを毎秒40回強弱させる振幅変調(アイソクロニック)のほうです。

そして利用者には、手元の音源がどちらの方式なのか、本当に主張どおりの刺激を含んでいるのかを確かめる手段がありません。Gamma 40 と、後述する音源チェックは、この穴を埋めるために作りました。

瞑想サウンドとGamma 40を混ぜられないことも、測ってから分かりました。理由は作ってから捨てた3つの案で説明します。

なぜネイティブアプリにしたか

もともとPWA(ブラウザで動くWebアプリ)として作っていました。ネイティブ化した理由は2つです。

1つ目はiOSのPWAは画面ロックで音が止まることです。瞑想や作業中に使うアプリで、画面を消すと音が消えるのは致命的でした。ネイティブなら UIBackgroundModes: audio が使えます。

2つ目は課金です。StoreKit 2 は端末内で購入を検証できるので、サーバーを持たずに課金が成立します。解約・返金・家族共有のように購入操作を経ずに権利が変わった場合も、購読しておけば反映されます。「バックエンドを持たない」という前提を壊さずに有料機能を作れました。

画面はWKWebViewに静的HTMLを載せたままにしました。音の生成と解析のロジックがすでにJavaScriptで書けていて、Swiftへ移植すると実測で担保している値を作り直すことになると判断したためです。生成はJavaScript、再生はネイティブ、と役割を分けています。

生成AIでBGM候補を作る

BGM 20曲は、すべてSuno AIで生成しました。有料プランの契約中に生成したものだけを本番に使っています。規約を確認したうえで、契約を維持し続ける判断をしました。

ここで一番の発見は、期待とは逆のものでした。

測定結果

プロンプトを変えても、出力はほとんど変わりませんでした。生成ごとの揺らぎのほうが、プロンプトの違いより大きかったのです。

3種類のプロンプトで10曲を作って測ったところ、プロンプト間の差はごく小さく、同じプロンプトで作った曲どうしのばらつきのほうが、はるかに大きいという結果になりました。煌めきを求める語を足しても、高域はほとんど動きませんでした。

あとから分かった構造的な失敗もあります。煌めきを担う楽器(ボウル・鐘・チャイム)を全部禁止したまま、煌めきを求めていたのです。それらはアプリ側で別レイヤーとして重ねる設計だったので、プロンプトからは外していました。

AIで測って絞り、人が聴いて決める

候補が増えると、すべてを同じ密度で聴き比べるのは現実的ではありません。そこで解析スクリプトを作り、AIと一緒に、先に確認すべき曲と箇所を絞り込む工程を入れました。

  1. 自動測定音割れ、無音、5秒ごとの起伏、急な音量変化、帯域の偏り、スマートフォンでの聞こえやすさ、ループの継ぎ目を測る
  2. AIで整理測定値と警告をまとめ、100点からの減点を参考値として、先に聴く曲と確認箇所を並べる
  3. 人が試聴曲全体の心地よさ、展開、音色、候補どうしの違いを聴き、採用・保留・不採用を決める

ここで測っているのは、音割れや大きすぎる起伏のような数値にできるリスクです。AIが数値だけで「瞑想に適した曲」と決めたわけではありません。たとえば音量の起伏が大きい曲には「展開を重点試聴」と印を付け、そのうえで候補曲は人が実際に聴き比べて採用を決めました。測定値は足切りではなく、聴くべき点を見落とさないための補助です。

最終的に、52曲の候補から20曲を採用し、残りの32曲は今後の差し替え候補として保留にしています。不採用として確定した曲はありません。

結論として、生成の歩留まりはプロンプトだけでは上がりませんでした。数を作り、AIで測って候補を絞り、最後は人が聴いて選ぶという流れに落ち着きました。実際に試聴した記録がないものは採用しない運用にしています。

なお収録BGMは、音質を優先して再圧縮も正規化もせず原音のまま再生しています。

環境音は実録に置き換えた

雨・波・川・森・焚き火は、最初は合成で作っていました。すべて捨てて、商用利用できるCC0のフィールドレコーディングに置き換えました。合成版は「それっぽい何か」で止まり、粒の密度・遠近・衝突面の響きが再現できなかったためです。

素材選びで学んだのは、スペクトルだけでは決まらないということです。

ある森の素材は、全体を走査しても高域の成分がほとんど無く、入っていたのは低い唸りだけでした。どこを切り出しても葉擦れになりません。これは不採用にしました。

逆に、雨と川が聞き分けられないという問題は、スペクトルでは説明できませんでした。周波数の分布はほぼ同じで、差が出たのは時間構造のほうでした。粒立ちのない雨は、信号としては川と同じなのです。以降、素材はスペクトルと時間構造の両方で判定しています。

作ってから捨てた3つの案

このアプリの設計は、良さそうに見えて成立しなかった案を捨てた結果です。

1. 音楽に40Hzの変調を掛ける

最初の案です。瞑想BGMそのものを毎秒40回強弱させれば、音楽と刺激が一体になるはずでした。

結果はザラつきでした。40Hzは聴覚の粗さ帯域に入るため、この速さで音量を上下させると、どんな音でも必ずガサガサした質感が出ます。パラメータを変えても回避できません。研究が音楽ではなく単純な音やクリックを使ってきたのは、おそらくこの理由です。

2. 変調していない音楽を、刺激の横に並べる

次に、刺激は刺激として鳴らし、音楽は加工せず横に置く案を試しました。聴くと脈打つ音が音楽の中の異物として残り、これも却下です。

さらに測定で分かったことがありました。変調していない音を隣に置くと、変調の谷が埋まります。音楽を7割ほどの音量で混ぜると、実効的な変調深度は100%から26%まで落ち、アプリ自身の検出器ですら40Hzを検出できなくなりました。

この2つを捨てた結果、「刺激と音楽は混ぜない。経路ごと分ける」という現在の設計になりました。Gamma 40を瞑想とは別のタブに置いているのはそのためです。

3. 強度プリセットを持たせる

「やさしい・標準・はっきり」の3段階を用意していましたが、削除しました。採用した音源が完全に断続する波形だったため、そこから浅い変調を作れません。選べないものを選べるように見せることになるので、操作自体を消しました。現在変えられるのは再生時間と全体音量だけです。

固定した音源と、測っている値

同梱しているGamma 40の音源は、次の値で固定しています。

指標実測値
変調周波数39.999 Hz
変調深度100.0%
ループ長177.75 秒(変調周期の整数倍)

ループ長が中途半端な小数なのは、変調周期の整数倍に合わせているからです。ここがずれると、ループの折り返しで位相が飛びます。

環境音でもつまずきました。シンギングボウルの音源が、ループの継ぎ目で小さく「チッ」と鳴ったのです。ループの作り方自体は正しく、壊していたのはAAC符号化で、ファイルの両端に誤差が出ていました。

効かなかった対策を先に書きます。ビットレートを上げても、クロスフェードを伸ばしても、末尾を切り詰めても、継ぎ目は直りませんでした。効いたのは、符号化する前に両端を数ミリ秒で無音へ落とすことだけでした。

音源チェック — 鳴らすのではなく測る

記録タブの「音源の周波数を確認する」から使えます。1.0では独立したCHECKタブでしたが、1.1.0でタブを4つに整理した際に記録タブの中へ移しました。

解析器は、手元の音声ファイルから変調周波数、変調深度、左右の周波数差を計算します。左右差を見るので、アイソクロニックとバイノーラルの方式の判別もできます。

この機能は、素朴な実装を捨てたうえで成立しています。たとえばモノラルに合成してから解析すると、バイノーラル素材がアイソクロニックと誤判定されます。左右の音を足すと、和の中に本物のうなりが生じてしまうためです。左右は別々に解析する必要がありました。

同じように、全帯域をまとめて見ると、倍音どうしのうなりを意図的な変調と誤判定します。帯域を分けて、全帯域に存在することを要求する形にしています。

検出の限界も測って決め、画面に書いてあります。深度20%以上は確実に検出、10%前後は音楽自体のうねりと区別がつききらないため「弱い」と表示、5%以下は検出できません。

実機での確認事項

解析器は既知の参照音源7件で期待結果と一致しています。一方、iOS実機でのファイル選択は、修正を入れた後の最終確認が残っています。そのため、この記事では解析方式の開発記録として紹介し、実機機能の完成を断定しません。

無料とPlusの線引き

ここは長く迷いました。基準にしたのは、無料でもアプリの中心である「自分だけの瞑想サウンド作り」を最後まで体験でき、Plusでは音の選択肢が広がることです。

基本機能は無料で提供する。音の選択肢と細かな調整をPlusにする。

無料版でも、4つの音楽カテゴリから各1曲を選び、雨・波・うなりを重ね、時間を決めて再生できます。BGMだけで聴くこともできるため、課金しなくても瞑想サウンド作りの一連の操作を使えます。

Plusでは、深い瞑想・集中・ソルフェジオ・リラックスや睡眠に合わせて用意した全20曲から選べるようになります。さらに川・森・焚き火・シンギングボウルなどが加わり、その日の気分や聴き方に合わせて組み合わせを変えられます。

Gamma 40と音源チェックは、アプリが出している音の仕様を利用者自身が確かめられるよう、無料にしています。精度や検証機能を有料版だけのものにはしませんでした。

課金の根拠はコスト構造とも一致しました。合成音の配信コストは小さい一方、BGMの制作・評価・権利記録・追加には継続的な費用と作業が伴います。既存の全曲と今後追加する曲を提供することを、Plusの継続的な価値としました。

無料SOUND SPACE Plus(月額480円 / 年額3,600円)
Gamma 40(時間無制限)、音源チェック、各カテゴリ1曲、雨、波、うなり、記録全20曲と今後追加される楽曲、川・森・焚き火・シンギングボウル・約528Hzチャイム、詳細調整、プリセットの無制限保存

有料曲も購入前に30秒試聴できます。無料の4曲で実際の使い方を確かめ、残りの曲も短く聴いてからPlusを判断できる形にしました。音楽を完全に閉じず、何にお金を払うのかを購入前に確認できることも線引きの一部です。

課金してはいけないもの

線引きで一番重要だったのは、何を有料にしないかでした。

有料にしないもの理由
精度「Plusだと正確な40Hz」は絶対にやりません。無料版が不正確だと自ら認めることになり、このアプリ唯一の主張が崩れます
音源チェック検証機能を有料にすると「検証されたくない」と読まれます。信頼の証明そのものなので開けておきます
広告瞑想アプリとして論外なだけでなく、実測上も破綻します

3つ目は補足が必要です。先ほどの測定のとおり、変調されていない音を刺激の横に置くと谷が埋まります。広告音声はまさにそれで、鳴っているあいだ刺激が成立しません。広告は理念の問題ではなく、この製品では技術的に両立しないという話でした。

価格をどう決めたか

買い切りは出していません。BGMを継続的に追加していく提供内容と両立しないためです。あとから追加はできますが、撤回はできません。

価格は、既存の瞑想アプリの月額・年額と比べて手に取りやすい水準を目安に、月480円・年3,600円にしました。Appleの手数料はSmall Business Programで15%。アプリ内課金はAppleが販売者になるため、決済・消費税・返金対応を自前で持たなくてよいのも、個人開発では大きい判断材料でした。

日本市場の法規制

有料・無料にかかわらず、周波数や瞑想に効能を結びつける表現は慎重に扱う必要があります。有料化を設計する段階で、掲載文とアプリ内の説明を事実ベースへ揃えました。

法令・規定何が禁じられるか
薬機法医療機器の承認を受けていない製品が、疾病の治療・予防・身体機能への影響をうたうこと。「認知症予防」「脳を活性化」「不眠が治る」はすべて不可
景品表示法根拠のない優良誤認表示。有料・無料を問わず、実際より著しく優良に見せる表現は避ける必要があります
App Store Guideline 1.4.1医療情報を扱うアプリは審査が厳しくなります

難しいのは、研究の引用も、効果を示唆する文脈で使えば同じ扱いになりうる点です。「この方式は研究で使われてきた」とは書けても、「だから効果がある」とは書けません。方式の一致を述べることと、効果を主張することの区別が、この製品の表現すべての土台になっています。

◯ 39.999Hz、変調深度100.0%で鳴っています。その値はアプリ自身で測って表示しています
× 40Hzのガンマ波が認知機能を改善します

この方針は機能にも及んでいます。効果の測定機能は実装していません。スマートフォンで測れるのは反応時間などの行動指標であって脳波ではなく、脳波を見るにはEEGが必要です。測れないものを測れるように見せないために、機能そのものを作りませんでした。

技術構成

領域採用したもの
画面WKWebView + 静的HTML / CSS / JavaScript(フレームワークなし、ビルド工程なし)
音の生成と解析Web Audio API
音の再生Swift の AVAudioPlayer。WKWebViewのWeb Audioが実機で無音になったため移行
オーディオセッションAVAudioSession .playback。既定の ambient はハードの消音スイッチで消える
課金StoreKit 2(端末内検証、サーバーなし)
音源の生成Suno AI(有料プラン)
音源処理と測定Python + numpy + ffmpeg
プロジェクト生成XcodeGen(project.yml から .xcodeproj を生成)
CI / 配布GitHub Actions(macOSランナー)→ TestFlight

実行時アーキテクチャ

SOUND SPACEは、画面、瞑想の音声処理、Gamma 40、Plus課金を一つの経路へ押し込まず、役割ごとに分けています。瞑想はBGMと追加レイヤーを端末内で組み合わせ、Gamma 40は固定音源を別経路で再生します。StoreKitへ接続するのは価格、購入、復元、利用権の確認だけです。

SOUND SPACEの実行時アーキテクチャ構成図
画像を押すと、拡大・検索・明暗切替ができるインタラクティブ版を開きます。「瞑想セッション」「Gamma 40」「Plus購入」の3経路を切り替えて確認できます。図中の本文は日本語、固定の操作UIは英語です。

Macを持たずにiPhoneアプリを出す

開発機はWindowsです。iOSアプリはXcodeでしかビルドできず、XcodeはmacOSでしか動きません。ここをどう回避したかが、開発フローの中心になりました。

ビルドと公開の流れ Windows PCからGitHubへソースを送り、GitHub ActionsのmacOSマシンがXcodeでビルドし、App Store Connectへ一方向にアップロードされ、TestFlightとApp Reviewを経てApp Storeで公開される流れ。 Windows PC Xcode が動かない GitHub リポジトリ ソースコードの保管場所 GitHub Actions(macOS) 数分だけMacを借りてビルド App Store Connect ビルド置き場と審査窓口 TestFlight 実機で確認・画面収録 App Review 審査員が実機で確認 App Store で公開 利用者がダウンロード
矢印は一方向です。App Store Connect から GitHub を見に来ることはありません。ビルドしたファイルを GitHub 側から App Store Connect の API へ送りつけています。

この構成には費用の落とし穴がありました。GitHubはmacOSの実行時間をLinuxの10倍で数えます。privateリポジトリの無料枠は月2,000分ですが、macOSでは1分が10分として数えられます。検証とアップロードを通しで回すと約13分、つまり130分ぶん消費するため、実質15回ほどのビルドで尽きます。

開発が集中した数日で枠を使い切り、審査対応が数日止まりました。原因はソースを変更するたびに自動でビルドが走る設定にしていたことです。Webサービスなら妥当な設定ですが、iOSでは高すぎました。現在は手動実行のみに変え、ビルドは「出すとき」だけ回しています。

会話ではなく、リポジトリを中心にAIと協働する

役割がはっきり分かれていたのはClaude Designです。画面のレビュー、改善デザイン案、実装の指示書までを任せ、その指示書をもとにCodexが実装しました。一方、Claude CodeとCodexの間には固定の役割を決めませんでした。どちらもコードの調査、実装、音源の測定、文章作成、審査対応を担い、その時点の課題に応じて作業しました。利用上限をきっかけに作業環境を切り替える場面は実際に何度もありましたが、そこで終わらず、一方の成果をもう一方がコードと測定結果から再確認する流れが自然に生まれました。

この運用の核はAIの使い分けではなく、開発の文脈を一つの会話に閉じ込めないことです。測定値、採用・不採用の理由、App Store審査の経緯、次に確認する項目をリポジトリへ残しました。別の環境から始めても、会話の要約を信じるだけでなく、Gitの履歴と実ファイルをたどって先行作業を検証できます。

協働の仕組み役割
リポジトリコード、音源、評価結果、公開用ファイルを一つの正本として管理
引継ぎ文書決定事項、失敗した案、再現手順、審査状況、未確認事項を外部化
相互レビュー先に行われた実装や説明を、別のAIがコード・ブラウザ・測定値から再検証
デザインClaude Designに実際の画面のスナップショットを見せてレビューを受け、改善案と実装の指示書を作る
人の判断音の最終試聴、iPhone実機確認、課金操作、公開判断を担当

AIを交代できても、人にしかできない確認は残りました。特に外せなかったのが試聴です。測定値が基準を満たした素材が、聴くと使えないことが何度もありました。逆に、聴いて良いと思った音が測ると成立していないこともありました。音楽の採否は測定では決まりません。

もう一つAIに任せられなかったのが実機の画面収録です。App Reviewが要求したのは「実機で撮影した操作の録画」で、これはiPhoneを持っている人にしか作れません。

2度の差し戻しと、3回目の承認

1回目 — Guideline 2.1(情報要求)

「審査履歴の浅いデベロッパアカウントからの提出なので、追加情報が必要」という定型の要求でした。内容を否定されたものではありません。

要求は7項目。目的と対象、機能への導線、使用している外部サービス、地域差、第三者素材の権利、アプリ内購入の内容。そして実機で撮影した画面収録です。はじめての提出では、ここで一度止まると考えておいたほうがよさそうです。収録を先に用意しておけば1往復減ります。

2回目 — Guideline 3.1.2(c)(サブスクリプションの表示)

これは正当な指摘でした。購入画面が「7日間無料トライアル」と「¥3,600 / 年」を別々の要素として並べていただけで、両者が繋がっていませんでした。条項には「解約しない限り自動更新されます」とありましたが、トライアルが終わった時点で課金が始まるとは書いていませんでした。

修正は、条件を1つの文にまとめることです。

7日間の無料トライアル終了後、¥3,600 / 年が自動で請求されます

あわせて、文言を焼き込むのをやめました。StoreKitが返す値——オファーの期間、支払い方式、そしてその利用者がオファーの対象かどうか——から組み立てるようにしています。対象でない利用者にはトライアルの一文を出しません。受け取れないものを宣伝する状態が、構造的に起きない作りにしました。

3回目の審査 — 承認

アプリ本体、サブスクリプショングループ、月額、年額の4項目すべてが承認されました。

なお公開前に最も心配していたのは、Guideline 4.3(b)の市場の飽和による却下でした。条文は「効果音」や「単純なタイマー」を名指ししており、当初の掲載文は「環境音を重ねて時間を計るアプリ」に読める書き方でした。1行目を書き換えて臨みましたが、結果として4.3は一度も指摘されませんでした。

プライバシーと安全性

公開状況とこれから

項目状態
バージョン1.2.0(ビルド23)
最新の配信2026年10月2日
初回の審査2026年9月10日 承認
配信地域日本、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール
表示言語日本語、英語(端末の言語設定で切り替わります)
対応デバイスiPhone、iPad
収録音源BGM 20曲、環境音7層(92MB)

App Storeの掲載文も直しました。1.0の説明文は、審査で「環境音を重ねるだけのアプリ」と読まれないよう40Hzから書き始めていましたが、承認後の1.0.1で、売りである自分だけの瞑想サウンドづくりを先頭に戻しました。

これからやることは、BGMの追加が中心です。Plusの説明に「今後追加される楽曲」と書いてあるので、書いた以上は続けます。あわせて、音源の測定値が変わっていないかの回帰確認をCIに載せる予定です。これはmacOSを使わずLinuxで回せるので、費用がかかりません。

まとめ

iOSアプリを作ったことがなく、Macも持っていない状態から公開まで来て、わかったことが4つありました。

1つ目は、Macがなくても出せることです。GitHub Actionsで数分だけMacを借りれば足ります。ただし課金の数え方がLinuxと違うので、そこだけは先に理解しておく必要がありました。

2つ目は、審査の往復を前提に組むことです。2度の差し戻しは、追加情報の不足と購入条件の表示不備でした。どちらも原因を分け、資料と画面を直せる種類のものでした。

3つ目は、AIに任せられる範囲がはっきりしていたことです。実装、測定、文章、審査対応はかなり速くできます。しかし「この音を使うかどうか」は、人が聴いて決めるしかありませんでした。Suno AIの生成でも同じで、プロンプトを工夫しても歩留まりは上がらず、数を作って聴いて選ぶしかありませんでした。

4つ目は、画面は出してから直すと、直すべき点が見えることです。公開版を操作した画面のスナップショットをClaude Designに見てもらうと、機能を足した順に積み上がっていた画面の課題が、優先度つきで並びました。その指示書をCodexが実装し、画面は使う順に並び直りました。そしてiPadの空白のように、見た目の確認は数値ではなく、実際の画面を見て行う必要がありました。

このアプリで一番時間を使ったのは、実装ではなく作ったものを測って捨てることでした。音楽に40Hzを掛ける案、刺激の横に音楽を並べる案、強度を3段階にする案、合成で環境音を作る案。どれも作ってから捨てています。捨てた判断はすべて、聴感か測定値のどちらか、あるいは両方に基づいています。

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